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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(行ツ)95号 判決

上告人

別紙上告人目録記載のとおり

〈略〉

代理人

山本晃夫

被上告人

東京都知事

美濃部亮吉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山本晃夫の上告理由第一について。

所論は、原判決には行政事件訴訟法(以下行訴法という。)三六条の解釈を誤つた違法があるという。

記録によれば、上告人らの本訴請求は、本件士地は、もと上告人らのそれぞれ所有するところであつたが、被上告人東京都知事により、自作農創設特別措置法に基づき買収されたうえ、他の者らに売り渡され、その者らのために所有権取得登記が経由された、しかし、右の買収処分は無効であるからその無効確認を求める、というのである。

ところで、右のような場合につき、行訴法三六条によれば、処分の無効確認の訴えは、当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができるのであつて、それ以外のものは、現在の法律関係に関する訴えを提起することができるにとどまるのである。そして、右にいう当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないとは、処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟または民事訴訟によつては、本来、その処分のため被つている不利益を排除することができないことをいうのである。したがつて、法律上そのような訴訟の形態をとることができるかどうかだけが問題となるにとどまり、そのような訴えの提起が法律上可能である以上、具体的に勝訴の見込みがないかどうかは関係がないといわなければならない。

上告人らとしては、買収処分が無効であれば本件土地の所有権は依然として上告人らにあるのであるから、買収処分が無効であることを前提として、売渡を受けた者らに対し、土地所有権の確認、土地の明渡、所有権取得登記の抹消登記手続の請求等現在の法律関係に関する訴えを提起することができるのであり、また、この場合、相手方の時効の採用等により勝訴の見込みがないことは、なんら、無効確認の訴えを許す理由とはならないというべきである。

所論は、ひつきよう、右と異なる見解に立脚するものというべく、原判決には所論の違法は認められない。

所論は理由がなく、採用することはできない。

同第二について。

所論は、原判決には判断の遺脱または理由の不備の違法があるという。

処分の無効確認の訴えは、確認を求めるにつき法律上の利益を有する者でなければ提起することができず、また、本件において所論の利益がこれにあたらないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかであり(昭和三〇年(オ)第六六五号同三一年二月一七日第二小法廷判決民集一〇巻二号八六頁、昭和三五年(オ)第二四八号同三六年四月二一日第二小法廷判決民集一五巻四号八五〇頁、昭和三七年(オ)第一四〇三号同三九年一〇月二〇日第三小法廷判決民集一八巻八号一七四〇頁等参照)、原判決の判示全体をみれば、原判決が右の趣旨をも判示したものであることがうかがわれる。原判決には所論の違法は認められない。

所論は理由がなく、採用することはできない。

同第三について。

所論は、行訴法三六条を原判決のように解すべきものとすれば、同規定は憲法三二条、七六条、八一条に違反するという。

行訴法三六条が原判示のような内容を定めたものと解しても、右の規定が憲法三二条、七六条、八一条に違反しないことは当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかである(昭和二三年(れ)第二八一号同二五年二月一日大法廷判決刑集四巻二号八八頁、昭和二五年(オ)第一一三号同二六年八月一日大法廷判決民集五巻九号四八九頁、昭和二七年(マ)第二三号同年一〇月八日大法廷判決民集六巻九号七八三頁、昭和二七年(テ)第六号同二九年一〇月一三日大法廷判決民集八巻一〇号一八四六頁等参照)。

所論は独自の見解であつて理由がなく、採用することはできない。

よつて、行訴法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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